中村 裕司
毎度お世話になっております。掘り取り直前のチリに行き、弊社現地駐在員とともに、 生育状況を調査して来ましたので、以下にご報告致します。
雨季が近く(この時期以降、南極方面からの冷気と太平洋の暖気がぶつかり、 ちょうど百合球根産地あたりに前線が生じる。)天候が心配でしたが、幸い(全く興味のない カニアーテ地区だけを除き)全圃場を回ることができました。
訪問時の平均的な気温は最高気温が10~15℃、最低気温が2~4℃程度で紅葉の末期、 落葉が始まっています。百合も一圃場を除きほぼ枯れた状態でした。
1.バルディビア地区(サンチァゴから南に約7~800キロ。南緯40度位)
ソネ社:アルフレッド・ソネ社長、生産担当アレックス氏
95ha、内40%はフレッター社、パウ社の契約栽培、70品種!!
昨年、大型冷蔵庫を建設し稼動開始。今年は倉庫を整備し、水洗・選別・消毒等のラインが完成、 本年の収穫に間に合わせる。バイラス管理面では世界一の定評有り。
主な品種は、カサブランカ、シベリア、シンプロン、マルコポーロ、アカプルコ、メデューサ、 ロンバルディア、アスカリ、バルバレスコ、ベルニーニ、マイアミ、リミニ等。 近い将来、リアルト、コンカドールの本格生産も始まる。
フレッター社の契約栽培ではシャンベルタン、ジェノバ、ジェンチル、トルマオ等の他いくつかの 黄色OTにも取り組んでいます。
・昨年9月初~末、植えつけ。(この時期に植えても、遅霜の心配無く、他地区に比べ早めの植えつけ が可能。)4月中旬から枯れ始め、訪問時点ではマルコポーロだけがまだかろうじて黄色を 残している程度。
・生育期間中天候にも恵まれ、順調。肥大化も悪くない。また、夏、十分な日照と温度が有り、 例年に比べ力のある球根になることを期待。
・ほぼ全品種の芽形成状態を見たが、品種により差有り。しかし、予想よりは全体的に進んでおり、 印象としてはオランダであれば、すでに11月中旬以降の状態。
・5月13日からスターゲザー、アカプルコ等から掘り取りを開始、6月内には終了したいとの事。
課題:
①品種数が極めて多く、各品種をいつ掘り取るのがベストか、十分検討する必要有り。本年から 弊社社員が駐在し、4月以降、芽形成状態や糖分濃度等を毎週チェックし、その検査方法を 現地スタッフに教えている。また、今後、データ蓄積ができれば、芽形成の早い品種から植え、 掘り取りもその順に行う等、効率的作業を期待できる。
②この地区は他地区に比べ、雨季の雨量が多いと言われ、掘り取りの中断を余儀なくされる。 それに対し今年から11台の掘り取り機と数十名の(球根拾いの)作業員を投入し、 遅れを回避する予定。
2.オソルノ地区(バルディビアの南方約100キロ。南緯41度)
バン・チューリップ社:ニコバイゼ氏:18ha、全てバンザンテンス社の契約栽培。
昨年9月末に植えつけ、バン社の指示により5月下旬からの掘り取りを予定している。 訪問当日の気温は13℃、地温は11℃(前週は9℃まで低下したとのこと。)
品種はヒルベティア、ラグナ、アルマータ、アクティバ、パンドラ、フランシア、 スターゲザー、ティアラ。
・契約栽培で全球販売球にすることを目指しており、全体的に粗植で肥大化は十分過ぎる ほどであった。
・やっと今月から枯れ始めたばかりにもかかわらず、なぜか『今年は芽形成が例年になく早い』; ニコ氏、とのことで、実際フランシア以外は芽がかなり大きくなっていた。オランダであれば 11月下旬以降の状態か? 特に、ラグナ等はすでに異常に(?)大きくなっており、 バン社指示通りでは発芽の心配が出て来たので、私たちの訪問当日に撮った(芽の状態の) 写真をすぐにオランダに送り、掘り取りを早める許可を待つとのこと。
課題:
①掘り取り時期の問題と初期冷蔵をどう施すか。 ②全てバン社の委託生産でリスクは小さいが、その分利益も限定される。今のところ、バン社の 品種は人気が有り、価格も安定しているが、南半球産と言えども市場競合は始まっており、 全体的な価格下落が起こった場合、投資に見あう利益を確保できるか?
3.ピエウエ地区(オソルノの東方、数十キロ)
ファン・ラモン氏:8ha、 全てオランダ・サンデ社の契約栽培。(対日輸出はオニングス社を通じて)
昨年10月1日~15日植えつけ、5月15日~25日の掘り取りを予定している。 訪問時の気温は15℃、地温は8~10℃。4月中旬から枯れ始めた。
品種はアカプルコ、マルコポーロ、ペサロ、ソルボンヌ、ブリスベーン、スターファイター、 シッシ、スマトラ、コルドバ、マニラ、ナイロビ、ソーディアック。
・やはり夏好天に恵まれ生育は順調、肥大化も悪くない。芽形成の状態はチリの中では平均的で、 品種によって大差はなかった。ただ、予定の掘り取り日ではやや早過ぎ?
課題:
①サンデ社の委託生産で去年までは収穫・選別後、球根は全てすぐにオランダに発送して仕事は 完了。したがって、冷蔵に関しては知識・関心ともにこれから。
②将来、25~30haを志向し、一部は日本へ直接輸出する場合も考えられるが、今のところ 冷蔵庫等の施設は不十分で、建設を考慮中。
4.ピエウエ地区(ラモン氏より更に数十キロ東、アンデス山脈寄り)
アンデスバルブ社:ブッシュマン社長、 生産担当ヘルマン氏。約50ha。全て、契約栽培で、
ボス社40ha、ステンボーデン社2ha、ヨープファンフェーン社2ha、(以上オランダ)。
ピグロス氏7ha(チリ;切り花生産用で一部スカシやLAも)
遅霜の恐れが有るため、植えつけはチリで一番遅く、9月末~10月末。掘り取りも遅く、 オリエンタルは6月以降を予定。一応、現在の面積に対応できる設備も整備された。
品種は、スターゲザー、アカプルコ、ソルボンヌ、ティバー、ベレーザ、アリーナ、タッチ、 メロースター、ルレーブ、シベリア、ベスプッチ等。
・チリの産地としては最も寒い所に位置し、訪問日の気温は正午頃で12~13℃で、最低気温は 2~3℃、地温は10℃以下とのこと。夏も涼しく最高気温の平均が20℃(暑い日は30℃近い 日もあるが、寒い日は15℃位と、かなりの変化有り。)今季の夏は晴天が多く、潅水を要した 程で、生育は順調。
・土壌は有機質に富み、排水性の良い深い表土で土壌条件はチリで一番良いと思われる。また、 雨季の雨もバルディビアに比べると軽く、掘り取りに支障はないとのこと。
・品種・サイズ毎に植えつけ密度を変える等、球根養成に関して、チリでは一番習熟している印象。 但し去年は防除の薬品を違えるというような初歩的なミスを発生させてしまい、今年から薬品庫の 鍵をヘルマン氏自身が常時所持する等、改善した。
・4月下旬まで葉は緑だったそうで、実際、訪問日の葉の色は全体的にまだ黄色で、一部 マルコポーロはまだ緑だった。
・芽形成はチリでは一番遅く、オランダで言えば11月上旬程度であった。6月以降の掘り取りとの ことだが、妥当と思われる。
課題:
①全て委託生産で、発注各社は日本市場を指向しているが、それならば品種構成、栽培面積に考慮が 必要。
まとめ
いよいよ今年から免除化予定のチリ産球根。私自身、2000年から3度目の訪問になりますが、 ①以前に比べ技術、知識、施設等大きな進歩が見られました。 また、 ②芽形成成熟度は同じ南半球のNZに比べかなり早いようです。 (昼夜の寒暖の差が大きいことが影響か?)
面積も拡大し、訪問しなかったカニアーテ地区を含めると、チリ全体で200ha前後と 推定されます。NZの約100haと合わせると南半球全体で300haということになり、 これはオランダのオリエンタル面積約1700haと比べ、すでに相当の生産量に達しており、 更に拡大を見込んでいます。私達にとりまして、冬から春にかけて高品質切り花生産に役立つ これら球根を極めて妥当な価格で利用できる日が近づきつつあります。
個人的な印象で恐縮ですが、チリの生産者たちは毎日きちんと気温・地温を測る等、基本に忠実で、 私どもの要望にも真摯に耳を傾ける謙虚さと純朴さを持ち合わせており、産地としての将来性を 感じます。弊社との交流で始まった生育及び芽形成状況等の調査が現地の役に立ち、より完成度の 高い、安定した球根をお届けできることを期待しています。