株式会社中村農園

レポート・球根情報



南半球出張報告(2016/2/26)

お客様各位

南半球出張報告in 夏

2016年2月26日
株式会社中村農園
中村慶吾

 いつもお世話になっております。
 2月1日より、南半球の百合球根生産国 チリとニュージーランドを訪問し、現地の状況を調査して参りましたので、以下にご報告致します。

 

① 気候について
 代表的産地の例として、チリのオソルノと、ニュージーランド(以下NZ)クライストチャーチの気候グラフをご紹介いたします。
(比較しやすいよう、同じ色とメモリにしております)

 

② 霜(フロスト)への対策
 春に気温が下がると、晴れた夜に霜が降ります。圃場の気温がマイナスに下がると地上部の葉が凍り、特に上部の葉が痛みます。リン片畑や植付けサイズが小さいもの、2年栽培などで発芽し始めたステージなどは特に被害が大きくなり一部は正常に生育できなくなることもあります。
 チリでは9-10月頃、NZでは11月初旬に(マイナス5℃の)霜が発生しました。事前に予測できれば、圃場に設置した大型循環扇や、一晩中ヘリコプターをホバリングさせるなどで空気を撹拌し、被害を抑制することができますが、あまり一般的ではなく一部圃場が被害にあいました。
 霜の発生は年により違いますが、産地ごとにリスクを考慮し、実際に被害にあった経験などから、植付け時期を遅らせる生産者がいる一方で、対策を行い冬(春早く)に植付けを行う生産者もいます。今回訪問時の肥大調査では、冬のうちに植付けをした方が摘蕾時期が早く、生育期間が長くなり、肥大も進んでいました。

 南半球の球根生産では、霜のリスクと対策の有無が、特に種球の肥大に影響し、後の球根生産体系にも関わってきます。霜のリスクがある場合、植付けは春に行われ、種球の肥大は普通、次年度の販売球も普通です。その為、大きいサイズを目指すには、全体に植付け密度を粗くして、なるべく球根を太らせるか、2年栽培を選択することが多くなります。
 一方、霜のリスクが低い(又は対策がある)場合、種球の肥大が良くなり、販売球の大球も概ね1年栽培で対応ができますが、種球サイズが大きくなるほど、販売球の圃場は密植になり、畝に光が入りづらくなる傾向があります。
 今回の訪問では、こうした生産者ごとの特徴や判断を知ることができて、とても勉強になりました。又、調査の際にリン片圃場もたくさん見ることができましたので、17年18年産を占うのに参考になります。

 

③ 植付け密度と栽培管理
 各生産者で撮影したシベリアの一部写真をランダムに並べてみました。

 夏は気温が高く生育も旺盛なため、葉の色は少し薄く感じるかもしれません。
 霜のリスクと植付け時期、例年の肥大傾向と、種球サイズなどにより、植付け密度が異なります。更に施肥量とタイミングなどにより販売球の出来が変わっていきます。今回の調査で、いくつかの生産者が施肥設計に少し修正を行ったと話しています。球根の腐敗の抑制や、リン付きを考慮し、生育後半の施肥を控えたり、逆にこれまで草丈やボリュームが少ない印象だった生産者が、幅広い葉の印象になるかもしれません(?)。こうした変化を、弊社のロット試験で毎年チェックし、結果や要望を生産側へフィードバックすることで、バランスの良い安定した球根生産に協力できればと思います。

 

 球根品質について
 2015年南半球産でも、いくつかの品種・ロットでバイラスの問題がありました。特にPVに関しては、2013年頃から現行の検査方式が活用され始め、2年前、昨年までは、各生産者が母球 及び 種球の検査と廃棄でクリーン化を進めていた段階でしたから、最も難しい年だったともいえます。
 球根品質は種球から始まります。14年に収穫された種球は、大きいサイズが15年産の販売球になり、小さいものは2年栽培用に使われたものがあります。15年産と16年産の2年栽培球がリンクする一例です。
 一方、種球は毎年更新され、前年とは違う系統(ストレイン)へと変わっていくので1年1年が異なり、去年良かったから今年も良いとは言えませんし、去年悪かったが今年良くなるということもあります。
 生産者は品質改善に全力を注いでいます。100万球以上の母球をハウス内で生産したり、不測の事態に備えて十分以上の種球を確保するため400万球以上をリン片する会社もあり、当然それらの自主的な品質検査(結構高価です)にも相当なコストを費やしています。
 先入観を持たないように心掛け圃場調査を行いました。PVは通常のバイラスに比べ症状が弱いのですが、畝に頭を突っ込み、個々の枝葉を見たりしてコツをつかめば(全てではないですが)とらえることができます。これは弊社が築いてきた経験ともいえます。
 調査で懸念のあったロットと生産側の情報との摺合せなどを行い、2016年産の仕入れの参考としました。(一部継続調査中)
 症状の出やすい日本の1-3月の気候に適した品質を供給してもらうために、こうした会話は重要なことだと思っています。

 

⑤ 2016年南半球産の仕入れ及び販売状況について
 今回の出張を通じて、多くの情報を得ることができました。おかげ様で品質を踏まえて、数量・サイズバランス・価格共に需要に沿った調整ができたと感じています。品質改善等の理由で、生産面積が大幅に減った品種があり、十分な数量が確保できなかったものにつきましては、確定し次第、関係のお客様にご報告を進めております。ご理解とご協力をお願い致します。
 間もなく、球数をご提示した在庫表(第0版)をお届けできる予定です。
 価格につきましては、両国共に交渉中の部分が残っており、もうしばらく時間を要しますが、球根相場と現在の為替水準から、ほとんどの品種が15年SH産よりも安くご案内できると考えております。

 

⑦ 世界の情勢
 前回レポートで、アジア各国の旧正月向け切花出荷について書かせていいただきましたが、その後 需要時期に寒波が入ってしまい、必要な時に出荷量が減少してしまったとの結果を聞いています。
 今年に入ってからの原油安もいくらか影響が出ています。百合切花の生産・消費国で化石燃料の産出が多い国がありますが、その国の経済が不安定になっているとのことで、特に中米のLAの消費動向が懸念されています。
(どちらかというと、16年オランダ産への影響になるのかもしれません。)

 又、世界中でミルクの価格が下がっており、チリ、ニュージーランドでもその影響が見られています。田舎で町から距離がある地域では、広大な牧草地がありますが、そういった土地を球根生産用に借りやすくなったという話や、数百ヘクタールがワイナリーやリンゴ畑になる予定もあるそうです。
 一方で、オランダの住宅価格はリーマンショック以前の水準にまで上がっているそうですし、今回訪問したチリの地方都市では、高台に千棟以上の住宅が新たに建設されていました。(下写真)

 

 出張時、春節の頃ということもあり、NZのオークランド空港にはたくさんの中国人旅行者がいました(爆買いという感じはしませんでしたけど)。
 世界の情勢が目まぐるしく変化する中、私たちは努めて慌てずに、自分たちの役割をシンプルに果たしていく事が求められていると感じます。
 そのことが球根生産者や輸出会社にとっても安定をもたらし、お互いに信頼関係を強めていけるからです。出張を通じて、現地の生産者・担当者に日本の状況を伝え、率直な意見交換ができて良かったです。ご協力頂いた皆さんにこの場を借りて感謝申し上げます。ありがとうございました。

以上