2004年9月29日
オランダの花き産業の主要専門誌である「FLOWER TECH:フラワーテック」9月号に、「日本をおびやかすアジアでの花き生産」と題する特集記事が組まれました。オランダにとっては、はるかかなたの極東の花事情について言及することは異例の事であり、以下に邦訳をご紹介致します。
㈱中村農園
翻訳:富永朝子
日本をおびやかすアジアでの花き生産
日本はアジアの切花生産の発展に注目している。
特に、中国での花卉生産の急成長ぶりは、今、日本でにぎやかな話題になっている。
グース・ウィッチマン記者
中国での花卉生産が元気だ。
東京のA社の品種登録部門の総責任者であるH.K.氏は、この事を強く感じている。H.K.氏によれば、中国の花卉生産は、もうすでにオランダよりも多いが、一方で、菊・カーネーション・バラといった三大品種の品質は、そんなによくないと説明した。しかしながら、彼は、これは時間の問題で、カーネーションは、後2~3年で、日本が望む程の品質になると考えている。バラの品質も、カーネーションと同様で、あと数年で向上すると思われ、また、菊は、それよりもう少しかかるのではないか(5~6年)とH.K.氏は予想している。菊の栽培は、三大品種のうちで、もっとも難しいと、彼は説明する。
H.K.氏は、中国の成長は、日本の花卉産業にとって、直に脅威になっていると考えている。中国は、最大産地の昆明から上海までは、安い国内線航空便を使い、上海から日本へは、船で運ぶことで、輸送コストの低減をはかっている。飛行機で、中国から日本の主要空港に花を運んで、高い航空運賃を支払うようなことはしないのだ、とH.K.氏は言う。
彼は、来年の5月に開設と噂されている、昆明とアムステルダムのスキポール空港間の航空貨物便が、直接結ばれることを強く期待している。
育種権
中国の花卉生産に注目し、A社は最近、上海に事務所を開いた。開設の最も重要な目的は、育種権の検査システムの確立である。H.K氏は、中国で生産される花卉全体の11%にあたるカーネーションを例としてあげた。このうちの50~70%は、A社とも関係のある、スペインのカーネーション育種会社・バルブレ&ブラン社からの品種である。
H.K.氏は、中国の生産者をきっちり把握する事で、莫大な権利使用料を受け取る事ができる、彼らはこれだけ支払うのだ、と断言した。
彼によれば、上海にA社を設立する事は、絶対に必要な事なのだ。A社の種や苗の配給をする中国の代理店では、権利使用料の管理はできない。H.K.氏は、実際には、他の育種会社とともに、管理システムを確立しなければならないと言う。
H.K.氏は、カーネーションが、中国の花卉生産の基礎となるほど、いかにうまく生産されてきたかを説明した。二年前、生産はおよそ、3100万本だった。去年には、7000万本に増加した。今年、もし1億本を越えても、決して驚くべきことではない。
もちろん、オランダの花市場の注目もあつめている。H.K.氏は、すでにVBAが、昆明地方からオランダへ送った試供品をいくつか受けとったと聞いている。彼は、またここで、昆明とスキポール空港をつなぐ直行便について言及した。
規模とコスト面で有利な中国
中国の成長で、日本の劣勢は、年を追って大きくなっている。H.K.氏によれば、もし日本の生産者が状況を変えなければ、中国のような国との競争に負けるであろう。実際、もうすでに遅すぎるのかもしれない。彼は、日本のカーネーションの生産は、規模が小さすぎるし、規模拡大するにも限度があるため、もうこれ以上、(中国のような)新規産地に対抗できないかもしれないと心配している。
関西のB社のR.S.氏もまた、中国の生産コストが安いことにふれた。彼は最近、中国の増殖工場に行ったことを例に出した。一人あたりの生産は、日本の二倍で、また、その中国の工場では、人々はカメラの監視のもとで働いているのだ、とR.S.氏は付け加えた。同時に、R.S.氏は、今、日本の誰もが、中国で起こっていることに、それぞれ違った見解を持っていると述べた。
関東のC社の取締役S.S.氏は、日本の生産者は、割高な値段で花が売れる事をあたり前だと思っている、と言った。S.S.氏は、他国からの切花の供給が多くなってくると、値段は相当に下がるだろうと恐れている。5年前、日本がインドからカーネーションを輸入し始めた時にも、そのようなことが起こった。たちまちにして、日本市場にカーネーションがあふれかえった。商品の価格というものが、いかに大きな影響を与えるのか、とてもはっきりした、とS.S.氏は言う。
マレーシアの状況
H.K.氏は、マレーシアの花き生産の発展は、日本の花卉栽培には、それほどの脅威ではないと考えている。スプレー菊を栽培する地域は、カメロン高原に位置している。雨よけだけで、温室や、暖房装置なしで菊を育てる事が可能な気候である。生産コストは安いのだが、カメロン高原には、耕作可能なスペースが限られているため、面積拡大は容易ではない。それゆえ、H.K.氏は、マレーシアは、日本の菊生産への脅威にはならないだろうと考えている。
中国の生産でも同じ事が言える。中国が、菊の生産を、需要期に適合させることは困難である。もし、生産者が、日本からの菊の需要を、一年を通じて充たそうとするならば、暖房を使った生産に変えなければならない。H.K.氏は、これが簡単にできる事だとは思っていない。
韓国の販売促進
韓国も、日本市場を熱望している国の一つである。韓国の花卉はすでに日本に来ている。H.K.氏によれば、韓国政府は、花卉栽培を強く奨励しているが、韓国の気候は特別有利ではない。冬には温度が-10℃くらいまで下がり、夏には、30~35℃の事も常である。H.K.氏は、韓国政府が、日本や韓国国内市場や中国の大都市で、韓国製品の宣伝広告や販売促進に、もうこれ以上投資する事はないだろうと指摘している。
R.S.氏によれば、日本は以前、オランダからたくさんのバラを買っていたが、今や半減し、すでに主要部分は韓国産に取って代わっている。最近は、バラだけでなく菊も増加しつつあるとのことだ。
台湾からの冬場の出荷
S.S.氏は、中国の生産者が、日本市場向けに、トルコギキョウを作りたいと言っていたと言う。この切花は、すでに台湾で日本向けに生産されている。台湾の生産者は、日本国内でトルコギキョウの生産が非常に少ない冬場に出荷する。平均的に、台湾の生産者は良い品質を供給できると、S.S.氏は言う。台湾は、夏は暑すぎて、トルコギキョウを作れないので、日本のトルコギキョウ生産者は、そんなに心配する必要はない。
しかし、これらはやや慰め言葉にすぎず、トルコギキョウ生産者のT.O.氏は日本でのトルコギキョウの将来に少しばかり不安を覚えている。日本のトルコギキョウの生産者は、どうすれば台湾よりも有位に立っていられるかを考えなければならない、と彼は率直に言った。彼は台湾での低コスト生産は脅威で、不安で一杯だ、と言った。彼は、将来、生産をあきらめる(日本の)生産者が出てくるだろうと予想している。100%切る事ができない(採花率の悪い)生産者は、あきらめざるを得なくなると彼は判断する。彼は、日本がトルコギキョウの生産の仕方を再構築できれば、問題解決も可能だと考えている。
品質に関して
東京の花の専門学校を経営するK.F.氏は、量ではなく、すべては質なのだ、と助言した。
もちろん日本の消費者は、値段は気にするが、常に品質が大切なのだ。日本では、本当の品質取引が、依然として成功している、とK.F.氏は付け加えた。
日本の住宅は狭く、多くの花を飾ることはできない。しかし、日本は1億3000万人の国で、消費者の力は大きいのである。
注:原文では、日本国内の会社や個人が実名で記載されておりますが、当訳文においては、仮名又はイニシャル表示と致しました。(㈱中村農園)