中村農園レポート:2006年2月16日
中村 慶吾
平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
1月23日~2月8日に、南半球の百合球根生産国であるチリ・ニュージーランド (以下CH、NZと表記)にて、主要な全ての生産会社を訪問し、 全ロットの生育調査を行って参りましたので ご報告致します。
1.生産面積の増加と委託生産化
2006年南半球の生産面積は、下記の通りです(数字はha)。
国 | 2005 | 2006 | 増 減 |
N Z | 111 | 126.7 | 113.50% |
C H | 253 | 342.5 | 135.40% |
NZ + CH | 356 | 469.2 | 131.80% |
★ | NZの生産会社は、主にオランダの輸出業者による自社栽培、及び契約栽培で、 品種構成に大幅な変化は見られず、日本市場で販売しやすい品種、サイズを多く含みます。 各品種の生産面積も極端な増加はなく、需要に応じて慎重な計画がなされています。 06年産の増加率は13.5%でチリには劣りますが、例えばオランダ産で10%面積が増えたとなれば 「大幅増」と言えますので、決して小さな増加ではありません。増加の殆どはバンザンテン社によるもので、 サナ、シーラ、コンスタンタなど新しい生産の品種も少しずつ増えてきています。 |
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★ | CHの生産面積は昨年より約35%も増加しており、これは訪問前の我々の想像を大きく上回るものでした。 中でも、世界最大級の生産面積であるソネ社、サザンバルブ社が20%以上の増加、 また、サンハーベスト社、チリボーレン社が前年の倍になるなど、激しい増加と言えます。 今回の訪問で特に印象的であったのが、チリから比較的近い 北中米の超大型切花生産者 (年間2000万本生産の会社もある)による、スターゲザー、メロースター、スターファーターなど を中心とした委託生産です。球根生産会社にとっては、様々なサイズを確実に全量引き取ってもらえる 契約栽培は、事業の安定拡大に重要な意味を持っており06年の面積増加の大きな要因であると感じました。 また、以前より継続されている、オランダの切花生産者との委託栽培も安定しており、 これら球根による百合切花が現在オランダ市場で販売され、一部の最高品質切花は、 なんと日本の単価水準並みの高い評価で好調に販売されています。南半球産球根による品質向上と 安定継続出荷による市況への効果は日本だけではないようです。 |
2.気候と生育状況
NZの気候は、マイクロクライメット(=細かい範囲で気候がかなり異なる)と言われるように、 生産地域により気候がやや異なりますが、大まかには、植付け後比較的気候は安定しており、 10-11月は暖かく推移しました。ただし、時折南極からの寒気が差し込んで来ることがあり、 10月にも数回の軽いフロストは起きています(夜間数時間の軽いもので作物への影響はありませんでした)。
南島南部のゴア地区では12月始めから寒気が入り、12月後半から1月中旬にかけて(南半球の初夏に)、 天候不順で雨量が多かったようです。南島北部のラカイヤ地区ではゴアのような大雨はなかったものの、 我々が訪問した1月下旬の気温は最高気温20度前後と温度は下がっていました。
CHの気候は、植付け後の9,10月は天気が良く、11月は雨がありやや気温が低い、 その後12月中旬まで天候は回復、12月下旬から1月上旬にかけてはNZゴアと同様に雨と低温となりました。 我々が訪問した2月上旬は、天候が回復し気温も例年並の暖かい夏でした。
今回主要な全生産者を訪問し、全ての畑と品種を調査してまいりました。NZ、CHの面積は合計で 450haを超え、今やオランダのオリエンタル生産面積(05年1543ha)の1/3程度にまで広がっています。 畑の中だけで毎日 何Kmも歩いたわけですが、今回の訪問で、調査した品種ロット件数は400以上にもなり、 内140件以上を試し掘りし、肥大と球根の状態を調べました。これだけ大規模な生育調査は世界的に 見ても例がないと思います。生産地や品種により肥大や根の状態だけでもかなりの違いが見られ、 興味深いデータが取れました。
まず、畑の状況は概ね良好です。植付け後の気候が暖かく、夏も暑すぎなかったため、 ストレスの少ない健全な生育をしています。ただし、ロットによっては軽い水害、土壌コンディションが 原因の葉色の不均一等がいくつかあり、それらロットについては今後の生育を精査したいと思います。
生育中の球根の状態ですが、NZは全般に土壌が乾きめに調整されており、根は乾いています。 古根は干乾びているものもあり、今後2月以降に根が形成されることになります。 球根サイズは、早い品種ですでに植付けから2サイズほど肥大しており、遅いものは今後肥大が始まります。
CHは、畑の水分管理がこまめにされており、殆どの品種がすでにしっかりした新根をつけています。 球根サイズも2サイズほど肥大したものが多く見られ、中にはこの時期として かなり太りすぎていると 言えるものもありました。CH、NZ共に、球根肥大はここまでのところ例年よりも良いようです。
我々が訪問した頃が、生産会社も丁度試し掘りを始めるころに当たり、担当者と合わせて一緒に 生育調査をする事ができました。調査の中で、上根の生育障害、根ダニに侵害されたものなどを いくらか発見することができ、問題のものは当社へ納品されないよう準備したいと思います。
3.各社の状況
ニュージーランド
―ここ3年でNZドルが高騰し、国内の物価も上昇しているので、輸出企業には厳しい状況が続いている。 その中でも効率良く、販売に合った球根生産が高い精度で行われている。
バンザンテン社:
オランダ人担当者3名が非常に良く機能して、畑から倉庫作業、輸出まできちっと管理がされていました。 需要のあるサイズになるよう、種球のサイズに合わせて、植付け密度や作型が良くコントロールされています。 訪問時、家庭の庭や街角に百合がたくさん咲いており、 ラカイヤの街にバンザンテン及びバッカー社が溶け込んでいるのが分りました。
バッカー社:
面積はほぼ前年並。元々オランダでの切花用に委託生産が始まりましたが、 現在は日本向けの品種も増えてきています。昨年のりん片畑の肥大が良くなかったため、 多くが2年栽培にまわり、06年収穫の面積は意外と少なくなっています。
サザンフローラ:
南島南部生産で地温の下がりが早いため、日本での栽培期間は他の産地よりも短くなるのが利点。
チリ
―大型機械での大規模農業と、安い労働力の両方を持ち合わせている。
サンハーベスト社:
チリ最北の生産地ロサンへルス。オニングス社との委託であるサンデ品種 (サッポロ、ナイロビ、コルドバ、ゾディアック)、リアルト、イエローウィンの他、 中米の切花生産者や、オランダの有名な球根生産者との委託生産もある。
ソネ社
100haを遥かに超えて、南半球(世界?)最大の生産会社。広大な面積のソルボンヌやシベリアが 順調に生育していた。05年産でリン付き問題が概ね終結し、本年産にも期待したい。 オランダの球根生産者との交流から、肥料施肥や潅水の方法などの工夫がされ、下根の状態は良かった。
チリボーレン社:
特殊な品種が多く、日本で使えるのはロンバルディアとソルディラ、コンカドール。 ビクトル社長へのスペイン語での聞き取りは少し大変でした。
ピガ社:
昨年とほぼ同面積で、メロースター、スターゲザー、アルマータが多い。 チリの中でも田舎の方に畑があり、現地労働者の時給1ドル(117-8円)は安い。
サザンバルブ社:
隣のファンチューリップ社を吸収し、生産面積はソネ社に並ぶ勢い。 地元の野菜農家と委託契約を行い、畑の場所を集中させないことで、 収穫高等のリスク分散がされている。倉庫面積と冷蔵庫を大幅に拡張し、今年収穫から使用できる。 二級品球根を使った切花栽培も路地栽培で順調に生育しており、イギリスのスーパー等に販売している。
サン&ブリーズ社:
チリで最も南に位置する生産者で、オランダのワゲナー社の委託生産を行っている。 植付けからすでに2サイズくらい肥大しており順調に生育中。 今後に向けて、施設の拡張を計画している。
ニュージーランド | ||||||
バンザンテン社 | ||||||
アクティバの畑 Aktiva |
カサブランカの畑 Casa Blanca |
カサブランカの葉 Casa Blanca |
シーラの葉 Sheila |
シベリアの球根 Siberia |
シベリアの畑 Siberia |
ソルボンヌの球根 Sorbonne |
ソルボンヌの畑 Sorbonne |
ソルボンヌの葉 Sorbonne |
ティアラの球根 Tiara |
トップホワイトの 球根 Top White |
マルコポーロの 球根 Marco Polo |
マルコポーロの畑 Marco Polo |
リアルトのリン片 Rialto |
ロディナのリン片 Rodina |
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バッカー社 | ||||||
シベリアのリン片 Siberia |
シベリアの球根 Siberia |
シベリアの畑 Siberia |
スターゲザーの畑 StarGazer |
マルコポーロの畑 Marco Polo |
リアルトの球根 Rialto |
リアルトの葉 Rialto |
ルレーブの球 Le Reve |
ルレーブの畑 Le Reve |
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サザンフローラ社 | ||||||
カサブランカの 球根 Casa Blanca |
カサブランカの畑 Casa Blanca |
カサブランカの葉 Casa Blanca |
シンプロンの畑 Simplon |
ソルボンヌの球根 Sorbonne |
ソルボンヌの畑 Sorbonne |
ティバーの畑 Tiber |
マハラジャの畑 Maharadja |
ルレーブの畑 Le Reve |
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チリ | ||||||
サンハーベスト社 | ||||||
イエローウィンの 球根 Yelloween |
イエローウィンの 畑 Yelloween |
コルドバの畑 Cordoba |
スターファイターの 畑 StarFighter |
ゾディアックの畑 Zodiac |
ナイロビの葉 Nairobi |
マルコポーロの畑 Marco Polo |
冷凍庫増設 |
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ソネ社 | ||||||
カサブランカの 球根 Cas Blanca |
カサブランカの畑 Casa Blanca |
ジェンチルの球根 Gentile |
ジェンチルの葉 Gentile |
シベリアの球根 Siberia |
シベリアの畑 Siberia |
ソルディラの球根 Soldera |
ソルディラの畑 Soldera |
ソルボンヌの リン片 Sorbonne |
ソルボンヌの球根 Sorbonne |
ソルボンヌの畑 Sorbonne |
ソルボンヌの葉 Sorbonne |
タラゴナの球根 Tarragona |
ティシューハウス Tisue house |
ティバーの球根 Tiber |
ティバーの葉 Tiber |
マニサの葉 Manissa |
ルシオンの畑 Rousillon |
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サザンバルブ社 | ||||||
カサブランカの畑 Casa Blanca |
シベリアの球根 Siberia |
シベリアの畑 Siberia |
シベリアの葉 Siberia |
ソルボンヌの球根 Sorbonne |
ソルボンヌの畑 Sorbonne |
ティバーの球根 Tiber |
ティバーの畑 Tiber |
ノバゼンブラの葉 Nova Zembla |
マルコポーロの球根 Marco Polo |
マルコポーロの畑 Marco Polo |
ルレーブの球根 Le Reve |
新倉庫部分 | 切花の箱詰め |
切花処理施設 |