中村 慶吾
平素は格別のご高配を賜わり、誠にありがとうございます。
南半球の百合球根生産地であるチリ・ニュージーランド (チリ:7月23~26日、ニュージーランド:7月28~31日)を訪問し、 球根及び収穫状況を現地調査してまいりましたのでご報告いたします。
○ チリ CHILE
① 恵まれた気候と、雨の収穫期
1月30日付の“チリ出張報告”でもご報告の通り、今期 夏の気候は非常に気温が高く、日照にも恵まれ
ました。2月に入ってからも同様の好天気が続きました。
(前年は2月から温度が下がってしまい肥大不足になった年です)。
3月以降の秋の天候は、平年並みでなだらかに気温が下がっていきました。特別問題になるような急激
な変化がなく、芽形成も順調に進みました。
5月から一転して雨が多くなります(バルディビアでは5日で300mmなど)。
リン片やLAの球根がこの時期に収穫されました。
6月の後半からオリエンタルの収穫が始まりましたが、同様に雨に見舞われます。
・ サザンバルブ社のあるプイェウエでは多い時には1週間に300mm。
・ ソネ社のあるバルディビアでは、今年これまでの雨量が昨年同時期の1.5倍となる1200mmを
超えました。
・ また、私が訪問する前日にはリオブエノ地区で70mmの雨が降り、高速道路の橋の袂が決壊す
るなど(おかげで移動に2時間以上遠回りをさせられました)、かなり珍しい気候となっています。
●短期に大量に降るのが今年の特徴で、収穫が長く途切れることはあまりありませんでしたが、
それでも平均して収穫は1週間程度遅れています。
チリの土壌は有機質を多く含んだ水はけの良い土地で、水没等の被害はありませんでした。
② 平年並みの球根と太い芽
この時期は多くの品種が既に収穫されており、品種ごとの球根チェックが容易に行えました。全般にキズは少なく、球根の締り、重み、また下根は平年並みと言えます。
(一部、前半に収穫された球根で腐敗が見られ、輸入をストップしたものがあります)
球根肥大は、平年並みです。肥大が悪かった昨年に比べ、半サイズ程度良いように見えました。
これまでに多くの品種の選別が済んでいますが、目だったショートはないと思います。
芽形成につきましては、全検査平均の前年比は以下の通りです。
外リン片 | 内リン片 | 芽長 | 芽幅 | 葉枚数 | 茎長 | 茎幅 | |
前年比 | 100% | 102% | 103% | 106% | 107% | 103% | 105% |
2007年産と比べて芽形成は進んでいます。平年と比べても芽の太さが目立っており、どっしりとした芽が多かったのが印象的です。夏の日照が多かったことや、秋の気温の下がり方がなだらかであった事、また、植え付けの密度が改善されたことなどが影響しているのかもしれません。また、生産される地域によっても大きさの違いがあります。
リン付きや ボリュームは、球根自体の大きさ(選別)や使われる環境によっても変わりますが、持っている力を十分発揮してくれそうな芽という感想です。
収穫時期の地温は、雨が多かったことからもやや高くなっており、訪問時(7月下旬に)収穫されていなかった球根については発芽に注意する必要があります。
○ ニュージーランド New Zealand
① 前半の豊富な日照、収穫期は雨
別紙、“2007-08年クライストチャーチ気候グラフ“の通り、生育前半(1月まで)は日照が非常に多く、球根の力が期待できます。
(月間グラフでは)2月以降は平年並みの気候となっていますが、生産者の話では4月の下旬に早い霜(昨年は5月の下旬頃)が入ったそうで、その後 暖かくなって、また霜が降り、これを何度か繰り返し、畑の枯れ方は平年よりも早かったようです。
収穫期はチリ同様に雨が多く、雨の合間を縫っての収穫が続いています。バンザンテン社・バッカー社のあるラカイア地区では、7月に入ってから毎週末に大雨が降り、週明け後半から収穫を再開したと思うと、また雨…という、イライラする状況が続いています。
私が訪問した7月29-30日は曇りで、夜遅くまで収穫作業がされていましたが、その翌日に大雨に見舞われたようで(北島では300mm/16時間)、ラカイア地区近くの主要道路で一時通行規制が入ったと聞いています。
北島のアイランドバルブ社は、雨は多いものの、既に販売球の収穫は済んでおり、
南島南部のサザンフローラ社も(毎年雨に苦しむ土地ですが)今年は雨は多くないようです。
② 硬く締った球根と、大きな芽
シーズンを通しての(特に前半の)豊富な日照は、球根に十分なエネルギーをもたらしたと思います。2-3月の芽形成頃にはなだらかに気温が下がり、比較的早い時期の霜で、球根の熟度は早まりました。
球根は全般に硬く締っており、根の状態も良いです。
肥大は平年並み~若干小さ目と言えます。(昨年は、例外的に肥大の良い年で、中身以上に太った感があり、リン付きは平年よりもやや抑えられた年でした。)
芽形成の全検査平均の前年比は以下の通りです。
外リン片 | 内リン片 | 芽長 | 芽幅 | 葉枚数 | 茎長 | 茎幅 | |
前年比 | 105% | 91% | 108% | 112% | 115% | 114% | 107% |
全般に芽形成は進んでおり、大きい(一部品種は発芽しそうなくらいの)印象でした。
調査日が異なるので単純比較はできませんが、雨天による収穫の遅れや、気温が高めに推移していることが影響していると思います。芽の大きさを見ると、比較的太さがあり、2年前の06年産に似ていて、球根肥大の傾向も合わせて、リン付きの良い年になるのではないかと思います。
○ 環境の変化と生産
08年産のチリ・ニュージーランドの気候は、温度と日照に恵まれた夏、なだらかな秋、収穫期の雨、と傾向が似ています。
球根は畑で栽培される作物であり、気候の変化が肥大や品質に直接関係するわけですが、地球温暖化の影響か、集中的な大雨や高温・乾燥など、極端な気象が増えてきており、毎年産地が直面する問題も変わってきます。
(サザンフローラ社のポール氏が言いました「たった一つ僕らがコントロールできないものがある、それが気候だね」)。
生産させる品種も大きく変わってきており(来年はさらに劇的に変わる!?)、球根生産の方法(品種にあった場所や植付け時期の選択)も合わせて変化しており、2‐3年前の経験では理解できないことが多くなりました。
毎年の訪問と数値化した調査が欠かせないと実感すると共に、環境保全のために自分達に何が出来るだろうということを考えさせられます。
生産技術は向上しています。裸リン片という、圃場でリン片の温度処理を行う方法が増えてきており、種球の生産は飛躍的に向上しています。これにより、需要のある販売球サイズに集中した生産に近づきつつあり、市場の変化にも対応しやすくなりました。
球根の相場や販売状況(これもまた環境)は厳しくなってきており、燃油代高騰の影響は南半球の生産者にも大きな不安となっていますが、技術の向上と変化への対応で頑張っています!
チ リ | |||
サザンバルブ社 | |||
シベリアの球根 | ソルボンヌの畑 | リアルトの芽 | 収穫機とロドリゴさん |
選別ライン | 畑での洗浄ライン |
ニュージーランド | |||
バンザンテン社 | |||
カサブランカの球根 | カサブランカの畑 | コンスタンタの芽 | シーラの球根 |
シベリアの球根 | ジャスティナの球根 | ビビアナの畑 | リアルトの球根 |
収穫機 |
その他 ( )内 Bakker=バッカー社、SF=サザンフローラ社、Island=アイランドバルブ社 | |||
シベリアの芽(Bakker) | ソルボンヌの球根(Bakker) | マルコポーロの球根(Bakker) | リアルトの畑(Bakker) |
選別ライン(Bakker) | アケミの球根(SF) | ティバーの球根(SF) | メデューサの畑(SF) |
リアルトの芽(SF) | 新しい倉庫(SF) | シベリアの球根(Island) | ソルボンヌの球根(Island) |
収穫(Island) |