お客様各位
オランダ出張報告
2019年12月17日
株式会社中村農園
中村 慶吾
いつもお世話になっております。
12月上旬にオランダへ出張し、圃場や収穫の様子、球根の品質調査、並びに球根生産者の事情と、輸出会社の入荷状況や製品化のプロセスなどを確認して参りましたのでご報告申し上げます。
① オランダの気候について
今年のオランダは、5月の低温を除き、生育期間中の気温が高く推移し、春から夏にかけて日照にも恵まれました。7月下旬には一部の生産地で最高気温が40℃に達し、昨年に続きフランスのような気候となりました。
昨年は夏の暑さが長く続き、11月まで暖かかったため、圃場の古茎が枯れず収穫が遅れました。さらに、収穫期に雨が少なかったことから球根の表面が乾き、品種を問わず収穫作業による傷が多くなりました。その為、いくつかの品種で抑制の定植時期にカビ・腐敗が発生しました。
2019年産では9月に気温が下がり地上部の枯れも早く進みました。加えて、収穫期の断続的な雨により、球根が土にくるまれて収穫されたため、傷が少なくなっています。私たちが訪問した週は、たまたま晴れていましたが、今年の収穫期は全般に雨が多くなっています。特にLAが多く生産されるアムステルダム北東部のNOP地区は長雨が続き収穫が遅れ、12月に入っても輸出会社に入荷していない品種がありました。
② ミッシング?によるショート(欠品)
ここ数年のショート品種(ロット)について、オランダ人の説明の中に「ミッシング(行方不明)」という言葉が使われます。肥大不足が原因で、大球を中心に数量が予想を下回るのとは異なり、肥大はしているものの選別結果が植えた数よりも何割も少ないというものです。
今回の圃場調査では試し掘りを行う際、植え付けた種球サイズがわかる畝の肥大をチェックしました。平均して肥大は悪くない結果で、お会いした生産者に尋ねても「肥大は割と良い」と答える人が多く、その点も一致しています。
ところが、輸出会社に入荷した早期収穫品種(主にLAとOT)の結果を聞くと、ショートがあるとのことでした。「球根生産者がどこかに転売したんじゃない?」なんて冗談を言う人もいましたが、今年は特にLAで“ミッシング”傾向があり、ショートが多い年になっています。
南ヨーロッパや南アジアの国ではLAの16-18や18-20の需要が減少し、球根生産者は安定した世界需要が見込める12-14と14-16を中心に生産するようになったため、植付けを密植にしています。“ミッシング”については諸説ありますが、今年は5月の低温や6月の降雨などの影響を受け、初期生育が遅れた株は密植により陰に隠れて成長できず、夏の高温と乾燥により消失したと言う担当者がいました。一方で、順調に生育した球根は、周囲にスペースが生まれることで、肥大は良くなります。
③ 芽形成調査と今年の特徴
下表は、今回調査したオリエンタル・OTの結果の平均値を、過去2年間の平均値と比較したものです。上の写真は今年の芽形成調査の平均値に近い数値の芽です。
2019年オランダ産の特徴の1つは、内リン片の枚数が多い事です。この枚数が多いほど肥大しやすい傾向にあり、地上部の枯れ方が遅いほど、肥大が進む可能性があります。
もう一つは、茎長が低い事です。特に芽が高かった18年産と比べて大きな差があります。芽幅は若干細めですが、茎部分の充実度から球根の力は17年産に近いと推測されます。
④ ОTバブルの崩壊と輸送コスト上昇の影響
アジアの好景気に乗って、急速に生産面積を拡大してきたコンカドールとロビナが、2018年後半に暴落しました。2019年産も価格は低くスタートしましたが、なおも生産面積は大幅に増加しており販売が困難になってきています。
これまでオランダの球根生産業界を牽引してきた2大品種の先行きが不透明になり、関係する球根生産者のムードは良いとは言えず、生産コストについてもシビアな意見が聞こえてきました。
日本ではネット通販の増加に伴い、数年前から輸送費が上がり、球根会社にとっても厳しい環境ですが、オランダでも輸送費は問題となりつつあります。特に、フランス産はオランダへの球根輸送にコストがかかるため、フランスで委託生産するオランダの球根生産者の中には、2020年からフランスでの生産を止める、減らすという話が出ています。
背景には、①温暖化でオランダの気候がフランスのように暖かく日照が豊富になったことや、②フランスの農薬規制が厳しく、ネダニやアブラムシ(バイラスの媒介)の防除が難しくなったことがあります。加えて、来年からは使用できる薬剤が更に規制され、品質リスクが高まる危険性があるためです。
また、不安定な気候に伴い、輸出会社の仕入担当は「フランス産は掘り取りがオランダよりも遅いため、ショートになった場合に穴埋めができないリスクがある。」と言い、日本でもフランス産シベリアがショートした際、極端な品種の偏りが生じた過去があります。
⑤ 環境政策が産業へ及ぼす影響
私たちがオランダを訪問している際、スペインで気候変動会議(COP25)が行われていました。ヨーロッパでの地球温暖化に対する意識は非常に高いものを感じます。ドイツとオランダは石炭や天然ガスから脱却し、風力、太陽光などの再生可能エネルギーへ転換しています。他方、フランスはCO₂の排出が少ない原子力発電へ更に進んでいくとみられます。
オランダは古くから風力発電がありますが、ここ数年はソーラーパネルの設置が驚くほど進んでいます。下の写真は農地に現れた広大なソーラー用の土台です。あまりに急速に普及したため、地方で発電される電力が、需要地までの送電キャパを超える恐れがあり、追加の設置が許可されない所もあるそうです。
オランダ政府は、今後、高速道路の制限速度を、時間帯により時速130kmから100㎞へ変動させるなど、市民生活にも影響を与えそうです。CO₂排出削減に刺激され、自然環境保全へ大胆な政策も打ち出されています。
特に使用農薬については、効き目の強い除草剤や殺虫剤が規制され、その他の薬品でも、年間の使用量や回数が制限されています。球根生産者は、複数の農薬を使い分け、潅水のタイミングや害虫発生情報などを駆使していますが、今まで以上に無駄なく効果的に防除を行うことが必要となります。
⑥ 最後に
今回、弊社でロット試験している球根生産者を訪問し、種球の生産体系や消毒などについて話を聞くことができました。養成圃場での防除が容易ではなくなった中、種球がクリーンであることがより重要となっています。その為、南半球の生産者同様、古い種球を使用せず、全てりん片からの生産に切り替えている生産者が多くなっています。作業面でも種球(及び母球)と販売球の洗浄や選別ライン(又は施設そのもの)を分けていました。プラムバイラスに関しても、種球の塩素系消毒技術が普及し制御できてきています。
弊社では、ロット試験を通じて優良な球根生産者の取組みを確認するとともに、お客様からの貴重なご意見を伺いながら、持続可能な球根供給がされるよう輸出会社との取引を行っています。現場や生産者の声を大事に考え、毎年収穫期に生産国を訪問することで、友好な関係と連携は高まっています。
今後も、皆様により良い球根をお届けできるよう、頑張って参りますので、よろしくお願い申し上げます。
以上